作品詳細

わたしたちのたいせつなあの島へ

わたしたちのたいせつなあの島へ

宮内喜美子

「菅原克己からの宿題」とともに歩む日々を

多くの人が菅原克己に出会いその道を歩みだしている。
宮内喜美子もその一人である。
出会いから別れまでの時の流れが淡々と語られている。
福島の友との交流は東日本の震災へと続く。
詩人真久田正さんとの早すぎる別れ。
その中で宮内喜美子の一行がつづられてゆく。



詩の灯ったところ
  ──菅原克己の家の跡地にて──


ここにちいさなお家があり
菅原克己が生きていた
後半生の三十年 それから
ひとりになったミツ夫人が暮らして
ある夜 火事で焼けた
蔦のからまる家も 眠っていたミツさんも
消えていった

ここで
普段着のやさしい言葉で
わたしたちのこころの奥にひそんでいる詩を
そっとひきだすような
地味だけれど
静かに普遍性のある詩が生まれた

わたしがここに来たのは何年前だろう
まだ結婚前の夫に連れられて
はじめて菅原克己に会った日
前の道は 大きな欅が並ぶ田舎道のようだった
絵が好きで描いていると言うと
 きっときみのほうが上手だね。
先生ははにかむようにおっしゃった
いっしょに神代植物園を散歩した
なにもかもが冬枯れしていたのに
なぜかあたたかく澄んだ空気に包まれていた

それから ある年の新年会
テーブルいっぱいに料理が持ち寄られ
みんなでぎゅうづめに座って
おしゃべり 笑い 歌い
詩の話になると険悪にもなり 真剣だった

隣のとものりくんが
ウルトラマンになってやってきた
詩誌や恋の悩みが持ち込まれ
陽気な奥さんは母親のようにみんなを迎えた
窓の向こうには 平八つぁんの麦わら帽子が
陽にチラチラと揺れていて

ここに
文学があったのだ
このちいさなせまい
雑草が立ち枯れしている地面の上に

一つの詩精神
やさしく きびしく
あくまで正直であろうとした
詩は芸術なんだからね とおっしゃった

毎日みつめる写真の
笑顔の眼鏡の奥で
じつは強いおそろしい目をした
ひとりの詩人が生きていた

詩文集
2022/01/17発行
A5判変形(150x195) 並製 小口折り

1,650円(税込)