作品詳細

たましいの移動

インカレポエトリ叢書 11

たましいの移動

國松絵梨

流れているものにつくついていけば 指をはう

立体

光がふってきて
立体をつくっている
うちがわへはいる
一部になる
光になる
波のように新緑がゆっくりとはためくとき
わたしはその新緑にふれている
浮遊している
宙に
腰かけ見降すときの
あしもとと
腹部のあいだを
波が
かこんで
沿って
かすめて
とおりすぎていく
つかまえられそうな輝きのために
片腕が弧をえがく

という音がたしかにきこえた気

する
腕をあげたときの指先を目で追うときのたゆたうような時

ながれ
うすいいろの爪にはじかれた光線が網膜を
焼きつける
脇をするりと猫のように


まとわりつく
そのときの
ふわりとしたかたまりは尾を
逃しながらもまた
大気へと
戻ってゆく
果てでまた会おう

約束する


縫製する

地震なのか、自分の心拍数なのかわからない。
半分くらい、あなたと会う
間くらいのところで 揺れたから
目を覚ましたのだ。
心臓であってほしい、明日会えないから、
そうした単純な願いでどうにか、
どうにかこの地平は縫いあわされている、
縫い合わされていろ! 心を寄せるべきものに
波が来る前に舵をとれ 舵をとらねばならない、
舵をとらねばならない、舵を、とらねばならない
舵を 舵が
とれない、とられない、わたしたちが
にぎっている時間がこぼれていく、
砂のように、指の隙間から、
どくどくと わたしたちは
頭の中でばかり詩を書くことはできない
降ろされてきた荷がすべて、言葉ひとつひとつにのしかかっている
知ってしまえばなかったことには
できない なかったことなどない、
全部、あった、のだしありつづけている、
ありつづけている、これからも、そうしてまた舵を、
舵を、舵を! とらねばならない。

少し足りないくらいの引きようが
わたしたちを保っている、
安堵していては物語は
はじまらない 宇宙から
はるばるなにかが届く
光線か
願いか
サスティンか
雲の分子が肺をふくらせしばし、停滞する、
うちがわで、渦を巻いている。
届かなくなったものこそ、棚の上で
在りようを放っている かざる痛みが、
わたしたちを保っている。



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詩集
2021/08/10発行
四六判 並製 小口折

990円(税込)