作品詳細

コンピレーション

インカレポエトリ叢書 16

コンピレーション

村野キサラヲ

これはわたしの話です。



めかくし

みずから絶った背中をみないための
めかくしの中で
扁平足に触れる冷たい岩

足の裏の皮膚は固い
冷たい突起物が
足の裏の皮膚を
ぶつりと突破しない

めかくしの中で
頼りなく伸びる手が触れた
すべらかな腹
まるい乳
あたたかい唇
発されることば「放流」

魚は跳ねる
変温動物、さかな

めかくしの中で
コンクリートの階段を
魚の口に放り込む日々に
生臭い声に耐えかねて口をふさぐ
生臭い体に耐えかねて喉をしばる

めかくしの中で
聞こえる羽音

蝿は飛ぶ
変温動物、はえ

食べ物の匂いに惑わされ
なだらかな肩にとまり
両手をこすり合わせる蝿を
見つめる太陽に似たあなた

蝿には耐えられない灼熱
蝿の手足が端からちぢれ
蝿の複眼は熱につぶされ
蝿のからだは吸収されて
蝿は蝿ごと黒点である
めかくしの中で
足の裏の冷えた感触
わたしの重みで
押しつけられる
ゴツゴツとした岩

わたしはさむい
恒温動物、わたし

魚のように跳ねず
蝿のように飛ばず
めかくしをするわたし

それにしても
足の裏の皮膚は固い
冷たい突起物が
足の裏の皮膚を
ぶつりと突破しない

そのとき
皮膚の下では血管がやぶれ
やぶれたところから血液が漏れだし
土踏まず(があるはずのところ)
にジンジンと痛む痣ができていた





インカレポエトリ


詩集
2022/07/10発行
四六判 並製 小口折

990円(税込)