作品詳細

千人のきみ

千人のきみ

原章二

きみはいつもそばにいて ぼくと一緒の夢を見ていた

亡き妻に捧げる著者第三詩集。 この愛は、深まることはあっても、消えることはない。

理想のひととは知らずに出会い
理想の恋とは知らずに恋をし
結ばれて子どもを育て
生活を半世紀間ともにして
それが理想のひとであると知ったとき
そのひとを喪っていた
そんなとき
どうしたらいいのだろう
どうすることもできないだろう
喪っていないと思うしかないだろう
そしてじっさい喪ってはいないのだ
いのちの世界は一度かぎりのものではなく
くり返される世界なのだ
空の青さはただ知覚されるものではなく
果ての知れない望みであり
水の深さはただ計測されるものではなく
得体の知れない怖れであり
きみの姿はただの肉体ではなく
遠のいては近づく歓びであり
花の香りはただの化学式ではなく
やわらかな眠りへの誘いであり
それらのすべてが世界の記憶を形成して
いのちの自然を蘇らせる
(「一度かぎりのものではなく」)

詩集
2018/02/04発行
四六判 並製カバー付

1,620円(税込)