作品詳細

笹原常与詩集 晩年
在庫無し

笹原常与詩集 晩年

笹原常与

ガラスの奥に透けて見える 過ぎ去った幾つもの夏 遠い彩り

遺稿ノートより編纂された第四詩集。「こうして編んだ詩集を深く眠る詩人はどう受けとめくださるか。はなはだ心もとない。たぶんに迷惑顔であり、苦笑されるのに違いない」(「書き付け」より 編者:岡田袈裟男)。
ここに残された言葉は、簡潔であり、美しい。情景が立ち上り、空気を感じさせる。晩年、研ぎ澄まされた詩人の感性、この純度、透明度に触れることができる喜びを思う。

1 
少年は日々 自分の中に行方を絶っている。
きのうの少年は 今日の少年ではなく
今日の彼は 明日の彼ではない。
夕暮 呼び戻されて母親と共に帰っていったのは
少年の抜け殻だ。
行方を絶った少年が戻ってくるのは ずっと後
幾つもの夕暮を超えた果て
だれも少年を憶えていない頃になってからだ。
無口な「大人」に面変わりして ひっそりと。

少年の中を 彼自身が曲っていった。
そのまま 彼は 帰ってこない。
一筋の路が 白く遠く つづき
風ばかりが 吹いていた。(「行方不明」)

生のなかから湧き出た悲しみは
生のかたちを超えて外にあふれ
夏の深さを
濡らしている。(「悲しみ」)

詩集
2017/04/11発行
A5 上製

跋文:嶋岡晨