作品詳細

cliche´

cliche´

八柳李花

ここからはことば、ここからは、からだ。

クリシェを遮る〈昏睡〉のための、これは時間の映らない海図であり、めくるめく海図にあらがう呼びかけのモアレであり、……そしてあの打ち寄せる岸辺に射す〈狂薔薇〉の無音に、息をそえる。なんという至上の反-クリシェ!――杉本徹

 こころではないところからかぞえだして、ひとつめの、藍。そこはどこにだってある、いつでもない今に溢れて。たまに立ちどまるきみの、冴えた虹彩にさえ、甘やかな躊躇いは慈しみをたたえたまま、据えおかれた感慨にさえ、こんなにも零れている。つるんとした夢の、ここちよい眠りの。おもたいまぶたの、すべらかな頰の。棘だった大地の、ささくれた封蝋の。とろけだした、子守唄の。
 きこえる、刹那はまだやわらかい。瞬きの手前からうらがえったままで、通りすぎる月齢の振幅にもとどめおかれるものは、あらかじめあたえてあるから。こうして、古びた欄線にうずくまったまま、ここにまで延びひろがる軌跡を、たどりなおしていた。(crosschronoptikosより)

詩集
2016/02/01発行
四六版 並製

1,320円(税込)