七月堂通信

2015年08月の記事

『やさしく象にふまれたい』が完成!

 『やさしく象にふまれたい』が完成した。オノツバサさんの第一詩集である。

 このオノさんもツイッターを見て七月堂を知ってくれた一人。今までも何人かの方がそのように言って本を作りに来てくれたが、本当にありがたいことだ。あんなツイッターをやっている会社でも許してくださるお客さんということはかなり心の広い方だろうから、もうその時点で製作にあたっての緊張が若干緩和される。
 オノさんとは年齢が近いこともあり、終始和やかに本作りを進めることができた。ここで裏話風に製作秘話を書くこともおそらく許して下さると思う。今までにない感じで新刊詩集を紹介していこう。

 最終的には三章に分かれた形の詩集になったこの『やさしく象にふまれたい』だが、当初章立てはなく、『シュルレアリスムの朝』というタイトルで頁数も半分ぐらいの小さな作品になる予定だった。この時点では「やさしく象にふまれたい」は収録されている詩のタイトルだったのだが、ボスがこれを気に入り
 「『シュルレアリスムの朝』だけだと若干難解な詩集と思われるかもしれないので帯に「やさしく象にふまれたい」と入れるのはどうか?」
という案が出たのである。

 確かに個人的にもオノさんの柔らかな人柄を見るに「シュルレアリスム」を看板に掲げるとそれをカバーしてしまうようで勿体ないなぁと思っていた。そうしたら見事に再校でタイトルを『やさしく象にふまれたい』に修正してきてくれた。なお「シュルレアリスムの朝」も章のタイトルとして残っている。

 この詩集を作る上でポイントになったのは字間と行間だろうか。やはりそれはどんな詩集でも重要だが、今回は特に見本の段階から「字間広め・行間狭め」という見た目にも面白いものを作ってきてくださったので、そのイメージを崩さないように製作を進めた。本を手に取った方にはそういう部分も楽しんでもらえると嬉しい。

 表紙は本文より厚い紙を使うのが一般的なのだが、この本は表紙も本文も全て同じ紙で作るという珍しいスタイルをとっている。そして糸かがりである。やはり本は糸かがりが良い、というのが七月堂の主張なのだが、勿論普通にノリで作ったほうが値段は安くなる。オノさんはお金を工面しても糸かがりにする道を選んだ。まあ確かにノリと糸で本を開いて比較してしまったら糸かがりにしたくなるのも仕方の無い話なのだが。

 本の外見に関わることはこのぐらいにして、内容も紹介していこうと思う。というか内容に最も関わる詩人“オノツバサ”本人について未知である読者の皆さんに紹介するほうが良いかもしれない。紹介し過ぎるとそれはそれで詩を読む楽しみも減ってしまうと思うし、あまりアホなことを書いて怒られるのもあれなので程々に。

 勝手な感想だが、オノさんを見たときにすごく「詩人っぽいなぁ!」と思った。何というか服装にこだわりがあるんだか無いんだかわからない感じや、穏やかに静かに語るが意志やプライドが人並み以上に確立された雰囲気、あと唐突にやって来る感じが詩人なのである。次は何日の何時ぐらいと約束しても、いつ来るかわからない。そういう人種に慣れている七月堂だから別に大丈夫だが、よそでは大丈夫なのかと心配していたらお仕事はバリバリと営業マンをこなしているようでこれも驚いた。世の中どこに詩人が紛れているかわからないものである。結構蒸し暑い日にてろっとしたニットの上着を着て現れたのも“詩人男子”だなぁと思った。詩人男子とネットで調べたらあまり良い意味で使われてなさそうだったが、自分はオノツバサさんを是非“詩人男子”と形容したい。
 詩についても“男子”が読み解くキーワードなのではないかとこれまた勝手に思っている。投げやりだけど粘着質で気にしてないようで引きずっている。たまにデカイことを言ってみたりもする。屈折していたり混乱していたりする部分も包み隠さず表現されている感が読んでいて潔いし、楽しい。勿論理解に苦しむような部分もあるだろうが、そういう個性があるからこそ人間は一人一人違うわけで、それが魅力である。女性が読んだらどういう感想を抱くのだろうか、というのも同じ男子として気になる部分だ。個人的な話だが仲代達也が「男って弱いですよ」と言っていたCMが好きだった。弱くても、それでも嫌いにはなれない男像を感じていただきたいものである。
 本人が意図したかはわからないが、時代感もうまく表現されていると思う。同年代だから思うことかもしれないが、大変な時代だとか色々なものが終わっている時代だと言われがちな現代だけれども、生きていかないといけないわけで、そうネガティヴにもなっていられない。そんな気持ちも表現されていると思う。そもそも詩集を作って出そう、人に読んでもらいたいと思う時点でとても前向きなわけだけれど。

 「完成したら、休みの日に電車の網棚に自分の本を置いて、どんな人が手に取るか見ていたい」

 と語っていたオノさん。あなたが網棚に『やさしく象にふまれたい』を見つけたら、その正面に座っている若い男が“オノツバサ”です。

No.0041 2015年08月07日 O